京都至近距離旅【番外編】

京都/日本

 ”至近距離旅”という言葉をご存知だろうか。近距離ではない、他ならぬ至近距離である。近距離の定義をどう定めるかについては諸説あるだろうが、当記事では自宅からおよそチャリンコで1時間程度の距離のことを指す。対して至近距離とはその半分、つまり30分圏内を言う。ここでいうチャリンコはクロスバイクまたはロードバイクと定める。したがって、ママチャリ愛用者諸君は、距離が伸びるにつれてかかる時間も逓増的に多くなることに十分注意したうえで読み進めてほしい。
 付け加えるが、かかる時間に関しては、その人物の筋力ややる気は考慮していない。

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 「旅といえば遠出」古くからそう言い伝えられてきたその概念を、たろゑもんは打ち破った。
 社会人として活動し始め、早4ヶ月が経った2015年8月末。夏の終わりを告げるツクツクボウシがここぞとばかりに鳴きわめく季節。学生時代と打って変わって「夏らしいことを全くしていない!」という事実に愕然とし、私はおもむろに旅の計画を練りだした。しかし急遽旅の計画を練るにあたって社会人としての休みは短すぎた。私はハッとした。今の自分は非日常的な行動がしたくて旅に出たい衝動に駆られているだけである。ともすれば遠くへ行く必要はあるのだろうか。

 そうだ、京都へ行こう。

 そう思い立ってすぐ京都のゲストハウスを調べ、「コンパス」というゲストハウスを予約した。ちなみに私たろゑもんは京都市内南部に生息している。つまるところ、京都へ行くというのは語弊がある。既に居るのだから。したがって京都市内のだいたいはチャリンコで巡ることが可能である。今回泊まることにしたゲストハウスも自宅からチャリンコで30分ほどのところである。つまり至近距離である。

 今回の旅の計画はこうだ。

 まず午前中は例のごとくチャリンコで三条まで行き、お気に入りの”喫茶ガボール”にて、コーヒーを読みながら本を啜る。昼ごはんはどこかしらでラーメンを貪り、そこからコンパスへ向かい、惰眠を貪る。夜は旧友と食事をすることになっているので、旧友を貪る。そして宿で再び惰眠の残りかすを貪り、翌日は京都の名所を巡る。

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 当日、案の定寝坊し、朝の読書計画は丸潰れとなる。とりあえずラーメンは食べたいと思い、三条の”長浜ラーメンみよし”へ行くも、となりの客が店員に罵詈雑言を浴びせかけていたおかげでおいしいと感じない。そもそも鼻が詰まっていたので味がわからない。雲行きが怪しくなってきたので、早めにコンパスへ向かおうとするも、途中でゲリラ豪雨に見舞われ1時間ほど雨宿る。宿に到着したのは予定よりもずいぶん遅くなってしまった。
 あれほどまでに洗練された計画をもってしても、寝坊と自然現象を前にすると、こうまであっさりと崩れ去ってしまうのかと少々感動してしまった。

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「ゲストハウスコンパス」

 私がこれまで訪れた海外のホステル、ゲストハウスと比べると類稀なる趣深さを醸し出しており、改めて京都万歳と言わざるを得ないような感覚に陥る。それからオーナー夫妻はとにかく明るく、親しみやすきこと限りなしである。滞在中、常に話し相手になってくれたり、コーヒーや紅茶、お菓子を振舞っていただいたりと、非常に親切にしていただいた。これほどまでにアットホームな面を含めても、類稀なるゲストハウスであると言える。

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 今回はドミトリー4人部屋にて宿泊した。相部屋には中国からやってきた留学生の「シンくん」と「ワンくん」がいた。
 歳上であるという「シンくん」に至っては、滞在2、3日目だというのにこの宿は我が城であるとでも言うが如く、貫禄に満ち溢れた青年であった。一方「ワンくん」は歳下で非常に可愛がられそうな青年であった。二人とも日本語が達者である。
 私がヨーロッパのあちこちを訪れた話をすると興味津々で聞いてくれた。だからとりあえず「生ハムを貪れ!」とだけ伝えておいた。

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 夕食に出かけるまでにまだ時間があったので、憧れの縁側で読書をする。

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 蚊が大量発生しているからと、蚊取り線香と殺虫スプレーを用意してくれたのはオーナーである。私の文化的活動を支援してくれる人物に巡り会えるとは思ってもみなかった。あらゆる面でこの宿が好きだ。

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 夜になり旧友を貪りに出かける。失礼、旧友と夕食を貪りに出かける。旧友といえどまあなんの変哲もなく普通に晩飯を貪っただけであるから、これ以上の記述は控えたい。

 宿に戻ると他の滞在者も帰ってきており、やや活気に満ちていた。風呂に入った後、共有スペースで文化的活動を再開させる傍で、皆の会話を聞いていた。中国人が多い中、フランス人やスペイン人も滞在していた。私はここでスペインと生ハムへの愛を彼らに表明することで、なんとかスペインに帰化できないかと考えたが、もちろんそれはやめておいた。消灯時間になったので部屋に戻り、シンくんとワンくんと話しながら寝床についた。

 翌朝、朝ごはんをいただいたが、滞在者が土産で持ってきたであろう、各国のジャムやらなんやらが勢ぞろいで、外国人のこの宿への愛を感じた。居心地の良い空間から抜け出すのは難しい。当初午前中から活動予定だったが、文化的活動に励んだり、コーヒーや紅茶を飲みすぎて頻尿になったり、オーナー夫妻と話したりしているうちにお昼になってしまった。

 いつまでいてもいいよという感じだったが、私は京都を闊歩しなければならないゆえ、意を決して宿から飛び出すことにした。わずか一泊であったが、この宿への恩は忘れない。コンパスよ、永遠なれ。次に来た時は、観光案内役に任命すると内示をいただき、是非また来ようと思った。別れを惜しみつつ、チャリンコを漕ぎだす。

 向かう先は三十三間堂。

 その後私が京都をより深く理解するための活動に勤しむようになったことは言うまでもない。

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