グラナダ師匠

スペイン/グラナダ

 午前中の長距離徒歩移動の疲れを忘れさせてくれるような、心地よい陽気に身を委ね、私はグラナダ市内の中心地を目指して歩いていた。ひとたび日向に出れば半袖一枚万歳の陽気だが、日陰に入ればひんやりと、一枚羽織るものが欲しくなるという、なんともわがままな気候であった。

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 人々が賑わいを見せる市内中心部とおぼしき場所にはカテドラルがあった。私はカテドラルには興味がない。興味がないから入ってみたが、やはり興味がなかった。これは前回ヨーロッパを訪れた際に、結論として出た答えのうちの一つであった。しかしあれから1年以上も経っているというのに未だに興味を示せないということは、いやはや私がまだまだ未熟なためであろうか、はたまたカテドラルが私のレベルに追いつけていないためだろうか。いずれにせよ興味がない物事にお金を払ってしまったことに対する自責と後悔の念を抱えてしまった。根本的にはキリスト教信者になることが解決の糸口となるのかもしれない。

 ラファエルに「グラナダには食べに来たのだ」などと豪語しておきながら、どの店がいいのか、何が美味いのかなどに関する情報を持ち合わせていないうえに、地図すらも入手していない私はとにかく歩き回る他方法がなかった。そんなことを考えながら、怪しげなギタリストが、哀愁漂う音色を奏でるカテドラルの前の広場を通り過ぎようとしたその時、どこからともなく「日本人だ!」という声が聞こえた。振り返ると怪しげなギタリストがこちらを向いてニヤニヤしていた。

ギタリスト「おーい!日本人だろ~!」

私「こんにちは、いかにも日本人であります」

ギタリスト「日本人久しぶりだな~!あんまり見かけないんだよな~!いつ来たの?どこから来たの?」

私「昨日の夜行バスでリスボンから到来してきたところであります」

ギタリスト「おっ、ポルトガルからなんだ!なんでグラナダに来ようと思ったの?」

私「なんとなく昨日行きたいな~と思っていたら、来てしまった次第であります」

ギタリスト「思いつきでここまで来たのか~、なかなかおもしろいね~」

私「暇なだけであります」

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 彼の名は「レオさん」という。聞くところによると彼は数年前からここグラナダに住み着いており、アルバイシン地区に自分で穴を掘って住居を確保しているという豪傑である。どうしようもなく野性的な人物であるなあと感嘆した次第である。日本では過去にアパレル関係の仕事をしていたといい、もしかするとアパレル関係の事業を担うことになるかもしれない私にも様々な助言をしてくれたが、今となってはその内容は皆目覚えていない。

レオさん「グラナダの歩き方というものを君に授けてやろう。とりあえずどこかで地図を手に入れてくるんだ」

私「わかりました師匠」

 いつの間にか師弟関係を一方的に結んだ私は、”まずはマップを入手する”というRPGが如く展開に持ち込まれた。マップを求めてグラナダ市街というダンジョンを駆け巡るのだが、観光業の一端を担う上で平日休日問わず機能していなければおかしいであろうインフォメーションセンターは、スペインお得意の怠慢の威力を私に思い知らせるかのように毅然とした態度で閉まっていた。こうなると道行く観光客の地図を奪い取るか、土産物屋で買うかのどちらかしかない。地図に金なんて払いたくないところだが、生来バファリンのごとく優しさを持て余している私に前者のような残虐な仕打ちは施せない。したがっておとなしく土産物屋で1ユーロちょっとで地図を購入し、レオ師匠の元に戻った。

レオ師匠「地図買っちゃたのかよ~、もったいね~!」

私「優しさの権化ですから」

レオ師匠「どこかで交渉したらもらえたのに~。まあいいや、ちょっと貸してみろ」

師匠に私が自称全日本生ハム愛好家代表であることを伝えると、美味しいハム屋を紹介してくれた。

レオ師匠「チョリソはもう食ったか?」

私「お恥ずかしいことにまだ食べておりません」

 レオ師匠「じゃあこのLA CUEVAというところに行ってみな。店内はバルになってるからそこでまずビールでもなんでもいいから酒を飲め。タパスが無料で付いてくるぞ。それから持ち帰りでチョリソを一本丸ごと買うんだ。多分3ユーロくらいだから。チョリソにはドゥルセとピカンテの2種類があってピカンテの方が辛いぞ。好きな方を食え。」

私「御意にございます」

レオ師匠「ビールはアルハンブラのヴェルデがうまい。ちなみにこっちの人はアーランブラって発音する。もしタパスでハムが食いたいなら”カルネ”といえばハムなりチョリソなりを用意してくれるぞ」

私「御意にございます」

 師匠は飲食店からショッピング施設、観光地など、グラナダに来たら抑えるべきスポットを地元民の視点を加えた上で色々教えてくれた。おかげで地図にはたくさんの印がついた。その時まで知らなかったのだが、スペインでは革製品が上質であることで有名である。同等の質を日本で求めると、3倍ほどの値段がすることはざらであるという。革製品が好きな私にとっては嬉しい知らせであった。ちなみに師匠のギターの弦は世界で一番硬いものを使用している、という話は全く持って有意義な情報とはなりえなかったが、そんなことは口にできない。

レオ師匠「ぜひ楽しんで。とにかく食べて食べて食べまくれ。スペインの他の街よりも物価が安いから、ここで蓄えることがグラナダを楽しむコツだぞ」

私「師匠、私もグラナダマスターになるべく精進いたします。このご恩は一生忘れませぬ。」

 レオ師匠に別れを告げ、広場を後にする。肉屋を求める私の足取りは、これまでにないほどに軽快であった。

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