砂漠の主

メルズーガ/モロッコ

 目が覚めると昼であった。他の皆の気配がなかったので、私はここぞとばかりにおもむろに洗濯に励んだ。砂漠ではどんなにびしょ濡れの衣類でも、一時間もあればカラカラに乾いてしまうという噂を耳にしていたので、私は大きなバケツを借り、全衣類を洗う覚悟で臨んだ。

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 屋上からふと砂漠の方を見ると、太陽の光によって橙色に照らされた砂丘と青空のコントラストが絶妙であった。

 洗濯を終え、共有スペースで調べ物などをしているとダイスケ氏が起きてきた。実に気だるそうにとぼとぼと歩いてきたダイスケ氏の顔面は、見るものの生気を吸い取ってしまうのではないかと思われるほどだ。

 二人で何をするでもなくあほな顔をしていると、アリさんが現れ、「お腹減った?」と聞いてきたので、問答無用でイエスと答えた。

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 これはベルベルオムレツというらしい。トマトや玉ねぎを炒めたところに卵を落として煮込むのだがこいつがまたうまい。

 ちなみにベルベルというのは北アフリカにはるか昔から住む先住民「ベルベル人」のことを意味する。このベルベルオムレツは彼らにとっての定番料理だそうだ。

 食事を済ませて洗濯物を確認しに行くと、本当にカラッカラに乾いていた。しかしそれと同時にたくさんの砂も付着していた。

 洗濯物を取り込んで戻ると、ヨーコ氏が一人の女性を引き連れ、談笑しながら宿に戻ってきていた。どうやら砂丘に登っていたようだ。

 「どうして誘ってくれなかったんだ!」と猛抗議をしたのだが、寝ている私たちを起こすのは申し訳ない、という女神のようなヨーコ氏の心優しさに感銘を受けた、というのは嘘である。

 ヨーコ氏の隣にいる女性はキョーコ氏という。字面だけ見るとほとんど同じ名前である。さらに年齢も同じであるという。いくつなのか気になる読者もいるだろうが、彼女らの年齢を公表することは、すなわち私の死を意味するので、ここでは差し控えたい。

 キョーコ氏はホテルオアシスに9泊もしているという豪傑であり、自称「砂漠の主」かつ「アリさんの愛人」である。両掌には”ヘナ”というタトゥーを施し、妖艶なる雰囲気を漂わせ、砂漠のフンコロガシたちを誑かしているという。

 しばらくわいわいしていると、アリさんがやってきて「今からヤギの脳みそを取り出すから見においで」といささか猟奇的なことを言う。

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 アリさんは猟奇的な笑みを浮かべながら、頭蓋骨をかち割っていた。

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 先ほど昼食をとったばかりなのに、また食べろと言われたので宿の女中たちとともに食べる。ヤギの脳みそを美味しそうに食べるアリさんたちを見て、絶対美味しくないだろうと思いながらパンをむしゃむしゃ頬張る。だが気味が悪いと思いつつも、私とて脳みそを食すことで、大学生活で死滅した脳細胞を補完するにやぶさかではないため、ひとくち口にしてみたが、その後私がその口を開くことはなかった。

 食後、ダイスケ氏は相変わらず気力のかけらもなさそうだったので、結局私は一人で砂丘に登ることにした。砂丘までは1キロほどややゴツゴツした道を歩いていく必要がある。また、靴で登ると砂が入ってきて仕方がないので、ポルトガルで購入した安物のビーチサンダルで出かけた。

 が、ものの数分でサンダルは音もなく壊れた。幸い宿を出てすぐのところだったので、一旦素足でラクダの糞をかわしながら宿に戻った。

 宿の前でアリさんとたむろしているおじさんたちにサンダルを見せると、一人のおじさんが応急処置を施してくれた。私は礼を言い、おじさんの善意に報いるべく再度歩き出したが、ものの数秒でサンダルは破損した。

 見かねたスタッフのヨセフが近くの商店に連れて行ってくれ、スポーツサンダルを購入することができた。サンダルには大きく「91」と書かれていた。いうまでもなくダサい。

 3度目の正直ということで、夕陽を拝むべく再度砂丘を目指した。「91」の履き心地はというと、素晴らしいものがあった。ビーチサンダルの100億倍は歩きやすい。

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フンコロガシの足跡

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 近くで一番高い砂丘に登ってみると写真集で見たのと同じような、いやそれ以上の絶景が広がっていた。砂漠を歩くのはなかなか骨が折れる行為である。素足で歩くのが最も楽で、夕方の砂はひんやりさらさらしていて気持ちが良い。日中はサンダルなしでは歩けないほど熱いらしい。

 比較的風が強く、砂丘の頂上の砂が風に運ばれて上空へ飛んでいく姿が神秘的であった。

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 砂漠の夕陽も非常に幻想的である。日が沈むまで眺めていたかったが、前後左右が砂であり明かりもないのでロマンチックなシーンが突如として暗黒世界に変わってしまう。そうなる前にと宿へ引き上げた。

 宿に戻って夕食とする。メニューはタジンであった。モロッコにやってきてからタジンばかり食べているが、今のところ飽きていない。ここのタジンも非常に美味しい。

 食後にトランプをしようということになったが、誰も持っていなかったためダメ元でアリさんにトランプはあるかと聞いてみると、あった。出てきたトランプは圧倒的に不揃いであり、過不足しかなかったが。

 それにしてもホテルオアシスは親切が過ぎる。誰も彼もいい人ばかりで、日本人に人気なのもわかる。

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 不揃いなトランプをあらゆる手法を用いて修正し、なんとか大富豪ができるところまで漕ぎ着けた。4人でわいわいやっているとアリさんも大富豪をやりたそうに、潤んだ瞳でこちらを見つめていたので混ぜてあげた。

 しかし大富豪を説明するのは至難のわざであった。したがって私たちは便宜上、ゲーム名を「リッチマンプアウーマン」に改名することを宣言した。日本全国に遍く知れ渡る「大富豪」というゲーム名をいとも簡単に改名することのできる人物など、我々の他にはいないだろう。

 しかし私たちの奮闘もむなしく、結局アリさんがルールを理解することはなかったのであった。

 明日はラクダに乗って砂漠キャンプに出かける。

 満天の星空が見れるといいなあ。

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