イミルシルの村

モロッコ/イミルシル     →前回の記事はこちら

 そうそうたるメンバーが集結し、伝説の湖への切符を獲得したことにより予てからその湖への憧れを抱いていた私の血液は、宿を物理的に揺さぶるほどの尋常ならぬ滾り方を見せ、外で寝そべる野良猫どもの断末魔が聞こえてきそうなほどであった。

 ここで私からイミルシルについて少し解説を挟もうと思う。ウィキペディアにもイミルシルについての記述がないのでこうして私が書く羽目になるわけであるが、これは全知全能のウィキ神による怠慢である。ウィキ神に頼ろうとした私はもっと怠慢である。

【イミルシルについて】
 イミルシルとは村の名前である。ティネリール及びトドラから北へ約120キロ、車で2時間半、標高2000メートル以上の高地に位置する人類未開の地である。アトラス山脈から流れ出る雪解け水の恩恵を受け、乾燥地帯モロッコでは珍しく農耕が盛んであり、縄文時代及び弥生時代を彷彿させる地として格好の懐古スポットである。民族衣装をまとったベルベル人、歩き回るニワトリ、トラックの後ろに乗せられた羊など、農耕民族としての誇りを感ぜざるをえないその様子に感銘を受けたことは言うまでもない。
 度々催されるスークはフェズやマラケシュと比べるとおよそ現地価格であり、誰も日本語で商売をふっかけてこないためストレスはないが、いかんせんよくわからないものばかりが売買されているため、ここで買い物を楽しめとは言い難い。一見ガラクタのように見えるものが、実はガラクタだったりするのだ。
 イミルシルの村からさらに北へ15分のところに「女の湖」(ティスリット湖)、そこから東へ20分のところに「男の湖」(イスリ湖)があり、今回我々はそこを目指す。
 その湖には伝説があり、互いに愛し合っていた男女が、部族が違うために引き離され、悲しみにくれた二人の涙によって作り上げられたのがその湖だという。2つの湖を作り上げることができるほどの水分を体内に秘めるために彼らが費やした時間は計り知れない。そう思うと自分も湖の1つや2つこしらえることができるのではないかと錯覚してしまうのだからタチが悪い。

 ややねじ曲がった解釈も含まれているがイミルシルとはこういうところである。

 ノリコさんがジャックしたグランタクシーに助手席に2人が腰をかけるという、交通違反ばかりに目を光らせる日本の警察にとっては旨み成分しかない状態で、所狭しとわやわや身を寄せ合いながら旅は始まった。モロッコのタクシーに使用されているのは古代の型式のメルセデスベンツである。開閉できない窓、うまく閉まらないドア、剥がれまくったシート、再利用もいいところであるが、なぜかよく走る。

 助手席の窓側で(そもそも助手席の窓側という表現がまずありえないが)、あらぬ方向に体をよじ曲げながら一番体の大きい私が豪快に詰め込まれていたわけだが、その道中カメラに収めた写真たちは実に壮大であった。

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 時たまこうした大きな穴が岩肌にぽっこりとあけられているのだが、これはノマドと呼ばれる人々の住処であるそうだ。ノマドはヤギや羊を飼育し、様々な地域を転々としながら動物を売買して暮らしているのである。つまるところ遊牧民である。巷で人気のノマドワーカーもここから来ている。

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窮屈を極めた車内、壮大を極めた辺りの景色。対極的すぎるこの関係が心地よいなあ!

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村が見えてきた。村に近づくにつれて緑が増え始め、田園風景が広がった。

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 なんと恐ろしいことにタクシーは人ごみの中に突っ込んでいく。日本であれば大量虐殺未遂に値するような暴挙であるが、この村の住民たちは顔色一つ変えずに、タクシーをぎりぎりで避けながら我が道をゆく。その姿に感銘を受けた私は日本に帰ったら、迫り来るタクシーに対して毅然とした態度で仁王立ちして立ち向かおうと思ったのであった。

 村に到着した我々一行は、湖へ行きたいという逸る気持ちを抑え、まずは村を見て回ることにした。ノリコさんはここのスークで買物がしたいと言っていたので、私もどのようなものかと見物することにした。

続く

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