星とクスクス

モロッコ/トドラ →前回の記事はこちら

 人類未開の地、イミルシルから見事生還した我々は、タクシードライバーにチャーター代とチップを与え、再び放牧した。往復でおよそ300DH、チップに60DHといったところである。

 トドラに到着する頃には、辺りはすっかり夕暮れ時であった。岩壁の隙間からから漏れる橙色の陽光が1日の終わりを告げる。
今晩はお手伝いのヨセフのお宅で夕飯をいただくことになっているそうなので、ノリコさんの宿から少し歩いたところに位置するヨセフ宅を訪れた。
 最後にもう一度日本食を食べたかったのだが、ヨセフが腕によりをかけて作る料理はうまいとノリコさんが言うので、期待することにした。

 ヨセフといえばティネリールで出会い頭に私にワインを買わせた男であり、それを一瞬で飲み干すような無類の酒好きである。いったい何がムスリムの彼をして「無類の葡萄酒好き」たらしめたのか、それは誰にもわからない。

 ヨセフのお宅はかなり広い。聞くところによると、ノリコさんはもうすぐここに宿を引っ越すのだそうだ。事業拡大である。ドミトリールームを設置して、より多くのバックパッカーを収容できる体制を築き上げ、トドラでの覇権を握る日もそう遠くはないだろう。
※2016年現在引越しは完了されたようです。

 「腹が減ったなあ!」と喚いていると、ヨセフの子供達が愛嬌を所構わず縦横無尽に撒き散らせながらスプーンやらフォークやらと食事の準備をしてくれる。恥ずかしいのだろうか、私が近寄るときゃっきゃと階下に降りて行ってしまう。そんな戯れごとにうつつを抜かしていると、ヨセフが大きな皿に美味しそうな匂いを漂わせる料理をのせてやってきた。なんだなんだと舌なめずりをして料理を見てみると、そこには私の宿敵である「クスクス」が堂々と鎮座していた。

 クスクスといえばシャウエンで一度口にして以来、私が徹底的に避けてきた料理である。無数の小さな小麦粉の塊を敷き詰めたその上からタジンの具と汁をのせた料理なのだが、小麦粉の塊が上にのっている具の全てを吸収し、無に帰してしまうという恐ろしい料理である。結果としてそれは無味となり、食すものを四苦八苦させる。これはどんなに具が美味しくても通用しない魔の料理である。

 しかし与えられた食事を拒むことは決してあってはならない。私は自らの胃を説得し、クスクス間食ミッションに取りかかった。

 が、ものの数分でそのミッション遂行は不可能だと悟った。食べても食べても小麦粉の塊がわらわらと現れ、食べるたびに増殖しているのではないかと思われるほどである。これが米ならクスクスは世界的美味な料理へと生まれ変わるというのに、モロッコ国民はその事実にまったく気づいていない。私は増殖する敵に打ちひしがれ、完食することを諦めざるをえなかった。

 ふと見上げるとトドラの澄んだ紺碧の夜空に無数の星が燦然と輝いていた。その星をクスクスに置き換えてみると吐き気がした。

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