タクシーゴーアラウンド【タイ2日目】

 この頃全く執筆が進みません。12月は連日の忘年会によって忘却に忘却を重ね、もはや自分の手元に残ったものは「眠たい」という生理的欲求のみになりました。末期症状ですがここからささやかながら巻き返しを図りたいと思います。

タイ/バンコク

 「マイペンライ、マイペンライ」覚えたてのタイ語を子供のように繰り返しながら、ホテルの前でタクシーから降りてきたのはたろゑもんである。
 タイのタクシーは安い。バンコク中心街であればどれだけ移動しようが3~400円であるというのだから。
 たろゑもんは気が大きくなっていた。「タクシーの釣り銭?そんなものはいらない。それくらいいくらでもくれてやろうではないか!」彼はバンコクの中心でそう叫んだ。もちろん心の中で。
 日本では決してそのような行為に及ぶことのないたろゑもんは、物価の安いタイでは大盤振る舞いである。気前がいいのかけち臭いのか、いずれにせよ彼は、確実に自分を見失っていた。
 一方で彼はタクシーに乗って何処かへ行こうというわけではない。ただタクシーを乗り回すという愚行を極めていたのだ。いかにして彼がそのような状況に陥ったのか。そこには深いわけはないのであるが、いきさつを説明しておこう。



 スパンブリーからバンコクへ見事生還を果たした私はO先生と別れた後、自己陶酔作用によって無駄に手配した5つ星ホテル「バークレイホテル」のエントランスを、果物やらお土産やら草木染め染料やらの大量の荷物を手に、アリババパンツを引きずりながら闊歩していた。他の宿泊客の中でも群を抜いて汚らしかったが、当の本人は気にしていない。

 チェックインを済ませ、部屋に案内された私は、その広大な自由空間を前にし、息を飲んだ。

バークレイホテル:プラトゥーナム地区にあり、5つ星ながらリーズナブル。8000円くらいで泊まれた。

 ボーイが下がると真っ先に無駄にキングサイズなベッドに飛び込み、飛んだり跳ねたりテレビをつけたり綺麗な浴室を物色したりした。
 しかしそんなことをしているうちに虚しくなった。シェムリアップのゲストハウスで酒池肉林を貪った盟友や、エンパワメント協会のみんなが恋しくなった。ここには私一人しかいない。
 私はおもむろに夜のバンコクに繰り出したくなった。私は街へ出た。そしてタクシーに乗った。

 さすれば前述の有様である。

 どこへ行くべきかもわからなかったので、とりあえずはバックパッカーの聖地カオサンロードへ行きたいと運転手に告げた。

 カオサンロードに降り立った私はなんとなく盛り上がりに欠ける町の様子を横目に、ただただ何度か道を往復した。
往復して、またタクシーに乗った。



 カオサンロードを後にした私は、ナイトクラブが集結するRCAという地区へと向かった。もう一人で乗り込んで現地民とワイワイしてやろうと意気込んで行ったものの、平日で閑散とした通りに愕然とし、また道を往復した。
 往復して、またタクシーに乗った。

 いよいよ制御機能の失われつつある中枢神経は、「もうよい、ゴーゴーバーへゆけ。」と私の身体に命令を下した。

 気づけばナナプラザにいた私は、煌びやかなネオンが光り輝く怪しげな世界へ歩を進めた。猥褻な姿をした男とも女とも取れない生命体が腰をくねくねさせながら手招きをしている。1F、2Fと彷徨いながら猥褻生物に絡め取られる腕を振りほどいている傍では、日本人の中年サラリーマンたちがこれでもかとうはうはその血を滾らせていた。日本で電車で見かける彼らの姿とは対極的であったのが印象に残っている。

 油断していると猥褻生物が硬い胸を我が左腕になすりつけ、おなごとは思えぬ膂力で私を店内に引っ張り込んだ。
 小さな店内は、ステージとその向かいに観客席があり、ステージ上では顔も身体も完璧に仕上がったおなごたちが並んで音楽に合わせ身をよじらせている。
 観客席に座らされた私は強面の女将に飲み物とおなごを注文しろと迫られ、好みの顔面をしたおなごを指名し、こちらへ呼んでもらった。
 やってきたおなごが抜群に可愛かったので、ウキウキしていると、女将がこの子にもお酒を、というので気分の高揚を推し隠せない私はもちろんと言ったが、その時おなごが発した「THANK YOU」という言葉を聞いて私は戦慄した。
 「……お、おっさんやないかい!!!」
 声が明らかにおっさんであったのだ。私は頼んだ分の支払いのみ済ませ、一目散に店を後にした。実に恐ろしい出来事であった。事前に調べもしなかった私が悪いのだが、あの店はニューハーフの巣窟であった。
 ニューハーフへの耐性のない私にとってはその一瞬で店内が異世界へと変貌を遂げた。
 しかしながらあそこまで完成度の高いニューハーフたちを生み出すタイという国には驚嘆させられる。



 店を出た私はそのままナナプラザから逃げ出し、またタクシーに乗った。

 かくして、私のタクシー周遊記は幕を閉じた。

 ホテルに戻った私は、セブンイレブンで購入したカップ麺を食べて心を鎮めたのであった。

 

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