美術館観覧のススメ

 どうもこんにちは。
 先日パリから戻って参りましたが、未だ現実を直視できない状況が続いております。
 仕事とは一体どういうものであったか、早起きとは何であったか、まるで見当もつきません。
 そんな私から今回は、芸術に明るくない私による、芸術に明るくない人のための、芸術鑑賞のススメを、偉そうにも述べさせていただきます。

 「絵を見ても何も感じない!」
 数年前、ルーブル美術館を訪れた私が発したこの言葉は、古今東西の文化人を震撼させた。
 日本国憲法第25条によると「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」のであるが、文化的であることを自ら放棄していたわけである。(ここでいう文化的とは意味が違うという指摘は受け付けない)
 幼少期は絵を描くのが好きであった。自治体のコンクールで賞状をいただいたこともある。つまり決して絵心がなかったわけではないが、いつの間にやらそういうことに疎くなっていたのだ。
 いや、確かに色使いが良いとか、タッチが細かいであるとか、そういうことはわかる。それに大変な技術を要することもわかる。それだけでも感動に値するのかもしれないが、しかしどこか腑に落ちない。そういう人も多いのではなかろうか。
 あるいは表面的にわかった気になっているのではないだろうか。

 物事の本質的理解のためには背景を学ぶ必要がある。歴史と言っても良いだろう。

 先日、原田マハの『楽園のカンヴァス』という小説を読んだ。
 アンリ・ルソーという画家の「夢」という作品と、対をなす「夢をみた」という作品に関する真偽を巡り、主人公たちがエコール・ド・パリ(1920年代ごろ)の時代に活躍した画家たちの歴史を読み解き、謎を解き明かすという美術ミステリーである。
 作中にはルソーはもちろん、ピカソやジョルジュブラック、アポリネールなど、その時代を象徴する芸術家たちが多数登場し、まるで自分もそこにいたかのように、時代の熱気に包まれるのである。


アンリ・ルソー『夢』by Google Arts & Culture

 今回私がパリに出掛けたのは、「楽園のカンヴァス」に触発されたからに他ならない。とりわけルソーとピカソの作品が見たいという気持ちからであった。

 何が私をそこまで駆り立てたのか。
 作中では画家の当時の生活や性格、他者との関わり、社会情勢などにまで触れられており、要するに彼らが「なぜ」その絵を描いたのか。ということがよくわかるのである。そして私はその「なぜ」に駆り立てられたわけである。

 例えばルソーという画家はとかく不遇であった。絵は独学、遠近法もろくに使えず、描かれる人物の表情は皆まるで同じ、いわゆる一見下手くそなものばかりであったため、当時周囲からは「日曜画家の域を出ない」と嘲笑われていたという。それでも自分の才能を信じ、健気に絵を描き続ける。
 そこに現れたのがピカソやブラックなどのいわゆる前衛画家である。既存の絵画そして自らをも否定し、常に新たな時代の可能性に情熱を注ぐ人物たちである。ピカソはルソーの作品を古道具屋で格安で入手し、そこに魅力を見出し、そこからさらにルソーの絵を購入するようになる。ピカソらは明らかに異質なルソーを讃え、友人でありかつ同じ前衛画家として位置付ける。ルソー自身も自らの歩んできた道は間違っていなかったと考えるようになる。

 当時でこそ下手くそだと言われ、生前に日の目を見ることはなかったルソーの作品であるが、彼の描く密林の深さや獣の躍動感、独特な構成や不思議な静謐さなど、変わり者でありかつ実直な性格がしっかりと現れている。そしてそれらのほとんどは想像であったのだという。想像をも現実と思い込むほどに純粋であった彼の作品は、シュールというか幻想的な世界観である。
 現代では一転してその独創的な画法が高評価を得ており、のちのフォービズムやキュビズムに影響を与えている。


アンリ・ルソー『蛇使いの女』 オルセー美術館


アンリ・ルソー『戦争』 オルセー美術館


アンリ・ルソー『ジェニエ爺さんの馬車』 オランジュリー美術館

 ルソーがこのような絵を描いた理由、ピカソがキュビズムを推進した理由、マティスがフォービズムに没頭した理由。時代背景、作家の思想や哲学の側面から考えると、絵画というものが見えてくる気がしたのであります。

 その時、絵はひとつの表現手法であり、表面的に捉えるものではないのだと気付いたのです。幸い私は歴史が非常に好きなので、物事の背景を探れば探るほど深みにはまり、魅力的に感じる。

 「あ、絵画って歴史なんだ。」
 そして、「絵画の面白さって歴史に思いを巡らせることなんだ。」そう思ったのです。

 皆さんの中にもし「絵を見ても何も感じない!」という人がいましたら、まずはビジュアル的に好きな絵を見つけて、その画家や時代背景を探ってみてください。ハマること間違いなしです。

 それから、美術館を目的に海外へ渡航される方は、海外wifiかSIMカードの手配をお勧めします。美術館では勉強しながら鑑賞するとよいとわかりました。


パブロ・ピカソ『鏡の前の女』 ピカソ美術館(パリ) 所有:MOMA


パブロ・ピカソ『夢』 ピカソ美術館(パリ) 所有:個人蔵


アンリ・ルソー『田舎の結婚式』 オランジュリー美術館

『楽園のカンヴァス』おすすめです!

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