メルズーガ/モロッコ
世にも稀にみる荒唐無稽な「砂漠のナイトクラブダンシングオールナイトパーリィ」もひと段落し、淡い期待を抱きつつ表の天気を伺ってみたが、”砂風ときどき月”という構図に変化はなく、やはり星はほとんど見えない。今夜は見れそうにないな、と肩を落とす我々とは対照的に、アリさんだけはその有り余る砂漠民ソウルを滾らせていた。
「もう一回砂丘に登ろう!」
アリさんに言われるがままに、我々はまた砂丘に登っていた。疲れも知らずに砂丘に登る。なぜなら、そこに砂丘があるからだ。
そういえば相棒たるよしをたちの姿が見えない。心配になってアリさんにたずねてみると、「ラクダたちはどこかへいった」らしい。
いわゆる放し飼い状態にしており、出発前にはハッサンが彼らを一頭ずつ探し集めてくるのだそうだ。しかしまあよしをたちはその辺でぽろぽろと糞ばかりこぼすに忙しいのだろうから、そう遠くまでは行かないだろう。
日中よりは風も弱まり、月明かりが辺りを藍色に照らしていた。夜空と砂の境界が曖昧で、しんと静まり返った砂の世界はどこか神秘的であった。
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闇夜の砂遊びもまた、熾烈を極めた。
我々は宝探しゲームと題して、誰かのサンダルを砂に埋めるという遊びに奔走した。
皆一生懸命砂に埋められたサンダルを探すという途方もない作業に明け暮れていたが、いい歳した人間たちがそのようにはしゃぐ姿はあまりにもシュールであったに違いない。
疲れ果てた我々は屋外に布団を繰り広げ、星空、否、曇り空を見ながら眠ることにした。まだ微かな星空への希望を胸に砂漠の夜の寒さに耐えんとしていたが、私はさすがにテントに引き上げて眠ることにした。
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目が覚めると朝であった。あほな顔をしながら表へ出ると、一同勢ぞろいであった。何事かと思い尋ねてみる。
「星!見えたよ!」と彼らは嬉しそうに言う。
私は彼らの意味不明な言動に耳を疑った。
「夜明け前に星めっちゃ見えたよ!」
「・・・」
「・・・なんで起こしてくれなかったんですか!!!!!」
怒髪天を衝く勢いで私は憤った。今世紀最大のイベントを泣く泣く諦めてテントでふごふごと寝ていた私を置いてけぼりにし、何故自分たちだけで満天の星空を楽しむことができようか。まさに鬼畜の所業。不倶戴天の憎しみを抱いた私は、帰りは終始無言で帰ってやる所存であったが、またぽろぽろと脱糞をするラクダたちを見て、その憎しみは砂ともに風に乗って消え失せた。
燦然と輝く砂漠の朝日はこの旅一番の清々しさをもたらしてくれた。
キャンプ終え、宿に帰還した我々は各々相棒のラクダに別れを告げた。
小柄であるにも関わらず最後まで上で暴れる私をものともせず乗せてくれたよしをには感謝の意を表明したい。
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