タイ/スパンブリー県ノーンヤーサイ →前回の記事はこちら
黒々とした不気味な雲が、空にすっぽりと覆いかぶさり、吹き寄せる風に含まれる湿気は、一層増したように感じさせる午後であった。
雑貨選びと拙い挨拶を終えたたろゑもんは、F先生やグラーブ会長に導かれるがままに、迫り来る睡魔との死闘を繰り広げながら、ファーム内の見学に取り掛かかる。
ここは牛の飼育現場である。タイでももちろん牛肉はよく食べられているのであるが、やはり国外輸入の牛肉よりは国内のものの方が良いと考えられているという。しかしここの牛自体はオーストラリアからやってきたと言っていたので、よく分からない。
雌牛たちは総じてお腹に赤ん坊がいるからか、昼下がりの気だるさをもって我々を迎えてくれた。足元では数羽の鶏が放し飼いされており、視点をさまよわせながらくいくいと首を動かして闊歩していた。
こちらはカエルの養殖である。タイではカエルは主食とされており、その食感は鶏肉に似ているのだという。
溜め池に所狭しと詰め込まれたカエルたちは、ただやみくもに足をばたばたしたり、どこかへ飛び移ったり、他のカエルの上に無造作にのしかかったりのしかかられたり、その姿はあほのようにも見えるが、愛くるしくもあった。
「食べちゃいたいほど愛くるしい!」たろゑもんは心にもないことを呟いた。
これはキノコを培養している施設である。この筒状の物体からキノコがにょろにょろっと出てくる仕組みである。
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その昔、まだたろゑもんが幼き頃、小学校の学芸会でキノコの役をやったことがある。それもベニテングダケという猛毒を有するキノコである。当時の彼は自らが毒キノコであることに誇りを持って演技に挑み、猛毒を備え持つその頭部を縦横無尽に振り回し、「毒を持って毒を制す!」と豪語した。「毒があって何が悪い!」とも言っていた。その勇姿はキノコ界を震撼させたという。
気をつけていただきたいのは、この逸話は当記事と全くもって脈絡がないということである。決してここで培養されているキノコは毒キノコではありませんよ。ありませんったら!
トウガラシ
レモングラス
これはたろゑもんがレモングラスの香りを嗅いでいる姿を捉えた貴重な映像である。一見ネギのような姿をしたレモングラスは、ネギとは対照的に健やかな香りを放ち、私を魅了した。
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数日前、たろゑもんがカンボジアにいた時のことである。
その時彼は例のプレアビヒアツアーに参加していた。そこでレモングラスに遭遇したのである。
帰り道に少し遅めの昼食のために立ち寄った食堂で、鶏のあらゆる部位が入ったスープというものが提供され、宿でBBQが準備されているにもかかわらず、むしゃむしゃと頬張っているところであった。
たろゑもんは「なんじゃこれは。変な食感の部位だなあ。パサパサしてるし!繊維質多めだし!」と喚いていた。
これは何かと訊ねても、返ってくる言葉はタイ語ばかり。「わからないなあ、もう!」
足掻いていると、隣にいた学生が言った。「それはレモングラスですよ!」たろゑもんは恐れ入った。これがレモングラスなのか!
この話には当記事と少しばかり関連性があるが、およそ読むには値しないだろう。
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この川ではナマズの養殖を行なっている。
餌を撒くとおびただしい数のナマズが忽然と水面に姿を現し、がちゃがちゃと餌を貪り食う姿はまさに地獄絵図である。
タイではナマズも一般的に食べられているというのだから驚きである。どんな味がするのだろうかと少しばかり興味があるものの、臆病なたろゑもんはそんなことは口にできない。
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このファームでは自給自足が可能である。世の中に必要なものを供給しつつ、自らの生活も賄うことができる。障害者の方々の生きがいになっていることだろうと思う。
そしてここまで完成度の高い労働環境が整備されていることにも脱帽である。
今後はセントラルグループからの出資を受け、さらに研修施設や宿泊所なども設置し、拡大路線を辿る予定であるといい、まさにタイにおける先進的なモデルが形成されて行く途上だということがわかる。
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さてさて、一通り見学を終えた我々は暗くなる前に夕食とした。日が暮れると周りが田んぼに囲まれたファームでは蚊が大量発生し、甚大な被害をもたらすのだという。私はこれ以上両足首が腫れ上がってはたまらないので、テーブルに並べられた豪勢な夕食をがむしゃらに食べた。
ジャスミン米にトムヤムクン、空芯菜にラープなど、タイ料理初心者の私には願っても無い、たくさんの種類の料理を味わうことができた。グラーブ会長は私が辛いものが大丈夫かどうか、非常に心配してくれていたのだが、残念ながら私は辛いものに目がない。
「辛さを持って辛さを制す!」そう豪語した。
「だからアロイアロイ!」そう連呼した。
アロイはタイ語で美味しいの意味である。グラーブ会長は喜んでくれた。
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蚊が大量発生する前に食事を切り上げ、F先生が手配してくれた宿へと向かう。
タイ1日目。いきなり田舎にやってきて、わけもわからず協会だの農業だのたろゑもん未開の領域に踏み込んだわけだが、新たな世界が広がったような気がした。
「何事も経験である。」どこかからそんな言葉が聞こえてきた。
続く。
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